>>戦争映画中央評議会

 

1944 独ソ・エストニア戦線

武装SSのエストニア部隊のお話

正統派度

100

真面目度

100

苦難の歴史度

100

総合得点

85


2015年エストニア映画。

戦争映画界ではほとんどなかったことにされている、ナチス親衛隊の準陸軍組織、武装親衛隊のエストニア師団(第二〇師団)の視点から物語が始まる。

この師団が集中的に活躍したのは1944年の7月下旬〜9月までであり、その期間の戦いにおいてドイツ軍はエストニアから撤退せざるを得なくなり、エストニア人義勇兵はドイツ軍の軍務を解かれ、ゲリラとして森に潜入する。その結果第二〇師団は大幅に弱体化せざるを得なくなる。

ただし、「青い丘の戦い」などに代表されるタンネンベルク線の防衛において、赤軍にかなりの出血を強いたのは史実である。戦闘シーンは人海戦術で迫る赤軍を撃退する武装SSの姿が活写されている。

 

武装SSの外国人義勇兵の師団にスポットがあたるのはとっても珍しいことである。どんな国でも今更対独協力の責任を問われたくはないし、たとえナチに強要されたにせよ忘れたい過去というやつである。しかし、実際には武装SSは戦争後期にはほとんど外人部隊の様相であった。その頃には純粋ドイツ人男性が既にほとんど死に絶えていたからである。

この映画、その点を考えれば大変勇気がある映画で、何か強い熱情でもない限り、わざわざ作るはずはない…というわけでとても本気度の高い佳作であった。

軍事的な描写に関しては十分に金がかかっており、ミリタリーファンも納得するはずだ。また史実に沿って物語が進み、酷すぎると思うような歪曲もない。絵作りがとても良くて、大迫力なだけでなくどこかアートチック。美しい映像が楽しめる。

愛国愛国していないところも高評価だ。エストニア産の戦争映画といえば「バルト大攻防戦」などが記憶に新しいが(といっても誰も知らないと思うが)、アレは愛国愛国していて電波が濃い映画であったが、この映画はとても冷静である。物語も悲劇的で、しっとり泣ける大人向けのつくり。

視点が公平であることに寄与しているのは主人公が二人存在することだ。一人は前半描かれる武装SS隊員の突撃兵だ。両親をシベリアに追放され、姉を一人残して武装SSに加わった。
もう一人はソビエト赤軍側のエストニア人小隊の下士官である。超絶のイケメンで、前半の主人公とは不幸な因縁で結ばれ、彼の姉に手紙を届けに行ったりする。

前半は武装SS、中盤以降はソビエト赤軍側の視点で物語が進み、両軍に存在したエストニア人が、祖国の土の上で殺し合った悲劇が描かれる。

独ソに挟まれて双方からの激しい暴力に晒された国々を「流血地帯」と呼ぶむきもあるのだが、これはまさに独ソに翻弄され、痛めつけられたブラッドランドの片隅のたった一つの例に過ぎないが、個人的にかなり興味深く拝見しました。

ドイツ軍と赤軍の区別もつかないエストニア農夫たちの描写も見所で、赤軍のエストニア部隊は彼らからドイツ軍と間違われるのだが彼らに快く食糧を与える。これは富農としてグラーグ送りか銃殺がほとんど確実な、彼ら同胞に対するせめてもの慈悲である。これらのシーンが説明台詞ほとんどなしで展開される。ちょっと上級者向けの戦争映画なのかもしれない。

軍服考証等にも問題はなく、武装SSのクールな春季夏季迷彩服や、各種自動小銃、機関銃、迫撃砲などが手堅い考証で画面上にて大暴れしてくれる。

後半はNKVDによる恐怖政治が軍内部の視点から描かれ(NKVDは出てこないんだけどね。。)、元対独協力者は例外なく粛清が待っている。強制動員された少年兵でさえ例外ではなく、ファシストは銃殺だ。ひどい時代である。

相変わらず邦題やパケ写がすっごく安いのだが、騙されずに観てほしい映画だ。久しぶりのオススメ作。この時代に興味があるすべての人に観てほしい。おれはDVD買っちゃったよ。

 

 

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