>>戦争映画中央評議会

アメリカン・スナイパー

目新しさはないしもうちっと掘り下げてほしかった

 

反戦

100

愛国

100

奥の深さ度

50

総合得点

75


2014年米。興行収入3億ドルを超え、戦争映画史上最もヒットした映画だ。

米海軍特殊部隊シールズのクリス・カイルの自伝的ドラマ。ブラッドリー・クーパーが演じる。

ストーリーはクリス・カイルがシールズに志願し、命を落とすまでを網羅的に描いている。

クリス・カイルは4度の出撃で徐々に心身を蝕まれていたらしく、この映画でも心の均衡を失っていく姿を丁寧に撮っている。

戦闘シーンはなかなか豊富で退屈せずに見通すことができた。作りは「父親たちの星条旗」にやはりよく似ていて、銃後のシーンと戦場でのシーンが交互に挟まれている。子供が生まれようが妻が泣いて止めようが無表情で戦場へかえってゆくカイルの姿。ここは「戦争のはらわた」や最近では「ハートロッカー」などでも常套の演出で、特別目新しさはなく、最近ではむしろ使い古された構図。まあ実話ベースなのだからしょうがないのでしょう。



問題は戦闘シーンもどこか垢抜けず、いろいろな戦争映画の影響を受けているのがわかる。スナイパー対決などは「スターリングラード」を連想させるし、市街戦の模様は「ブラックホークダウン」を連想するしかない。また、子供も容赦なく撃たざるをえない狙撃手の悲哀などは既にたくさん描かれており、「セイヴィア」などがよくできている。

実話ベースなんだから文句をつけるところではないだろうが、目新しさはイマイチだったんじゃなかろうか。。

カイルが相手にするのは、イスラム過激派でも最も残忍と言われ、後の「イスラム国」の母体とされるザルカウィの部隊だ。"虐殺者"のあだ名で呼ばれるザルカウィの部下と、凄腕の狙撃手(元シリアの五輪選手らしい)。この2人に仲間を殺され執拗に追い続けるカイルだが、いつしか家族と過ごす時間よりもこいつらのケツを追い回してる時間の方がはるかに人生において大切な時間となっていく。

この過激派側の凄腕狙撃手はなかなかカッコよく、過激派の残忍さもザルカウィの部下ともなれば納得。特別過剰に残忍に描いているとは思わなかった。米軍側も決して悪として描かれることはなく、自虐的な演出はあまりない。



容赦ない過激派集団と、超強いアメリカ海兵隊とシールズの姿を特別ひねることもなく素直に描いているように思う。イーストウッドはイラク戦争には反対したそうだが共和党支持者らしい。この映画は愛国的といっても問題ないだろう。戦場で命のやり取りをした英雄たちに対する尊敬の念が随所に感じられ、彼らが身を犠牲にしてでも国家に殉じる姿をドラマチックに描いたといえる。

正直イスラム国の危険思想が跳梁する現状の世界に対するアンサーのようなものが一切ないのには拍子抜けさせられた。アメリカ人からみたらそりゃシールズは英雄だよ。それで終わりというのはちょっとなあ。これがアカデミー賞とっちゃったらテロがますます増えそうだ(笑)。

戦争に英雄はない、という作風の作品を作っていたイーストウッドだが、今作品は完全に"伝説の英雄"をリスペクトする映画だろう。戦争神経症のくだりも反戦のメッセージというよりは、降りかかる苦難にめげずに耐え抜いた"伝説"の英雄性をより喚起する材料のようにみえる。無論イーストウッドにそんな意思はないかもしれない。しかし、これはそうみえる。そう言われても仕方がない。

独善的なアメリカンスタンダードや、西欧にばかりいい顔して私服を肥やし、貧民には見向きもしない石油王たち。これらに対する反感が無尽蔵にカオスを巻き込み膨張しているのである。この現実に対して、ほんの少し、ただの一言もなかったのには、ガッカリしたし、意外だった。単純な映画だから一般にはウケるでしょうね。


 

 

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