>>戦争映画中央評議会

アウシュビッツ行 最終列車 (ヒトラー第三帝国ホロコースト)

変わり種のホロコースト映画

リアル度

100

ヤバイ度

100

皆殺し度

100

総合得点

90



2006年ドイツ、チェコ映画。

これは変り種の映画だが、こういう実験的な試みをやってみたにしては、相当完成度の高い映画となっている。かなりオススメしたい映画である。

「スターリングラード」で好事家の間で高名な
ヨーゼフ・フィルスマイヤーが監督の一人として名を連ねている。おれは観たあとに気づいたのだが…それを知ってこの映画について色々と納得が行きました。

話しはすごく単純である。

1943年4月、ベルリンで最後に残ったユダヤ人のブルジョワたち。その財力ゆえに、"移送"をまぬがれていた特権階級たちなのだろう。だが、42年以降、死の絶滅収容所は途方もない規模で全力で稼働し、ソ連軍が迫る1944年末までユダヤ人やジプシー、同性愛者、障害者は
価値の無い命(Lebensunwertes Leben)として抹殺されていく…。命令したのはヒトラーかもしれないが、その暴力の主催者はSS、警察、そして、OKWが発したコミッサール指令やライヘナウ元帥の発言などに見るように、ヴェアマハト(ドイツ国防軍)も少なからず関与していたとみねばならないだろう。

さて、このようなユダヤ人のブルジョワ688人が、
ゲハイメシュターツポリツァイ(GESTAPO)の強制捜査により狩り集められる冒頭がまず秀逸。コンプレックスと憎悪と偏見に満ちた捜査官たちの暴虐ぶりにゾクゾクさせられる。法も何もあったもんではない。それはただただ弱いものにふるわれる暴力でしかない。抗う術を持たぬものはなす術も無いのである。

こうして駅に集められたユダヤ人たちは汚くて臭い家畜用の貨車にすしづめで詰め込まれ、
何十人もいるのに水はバケツ一杯のみ。あと排便用のバケツが一つおいてあるだけ。想像以上に快適そうな社内環境の中、列車は入り口を施錠され、ワイヤーで固定され、出発する。人々の中には乳児もいるし、老人もいる病人もいる。医者もいれば聖職者もいる。まさに無差別。行き先はアウシュビッツ。ベルリンからアウシュビッツは今の飛行機でも2時間半ぐらいかかる。地獄の夜行列車である。



この映画はこのように、アウシュビッツに向かうまでの列車の中での人間模様に焦点を絞っており、それ以外には何も描かれていない映画である。と書くのはややおおげさか。ミニマムな視点だが極めて興味深い内容である。

列車に同行するのは、
SS髑髏大隊(Totenkopf-Sturmbann)と思われる襟に髑髏の徽章をつけたSS部隊。列車の護衛に髑髏大隊がつくというのはあまり見かけない描写で、史実かどうかは不明なのですが、まあフレーバー的にはかなり良い味を出していました。極悪非道でアンホーリーなステレオタイプ通りのSSの描写です。

最初はゲシュタポだが、髑髏大隊にバトンタッチしてからは、
オーバシュトゥルムフューラー(SS中尉)クレヴァスが主役級の扱いです。「寛容さは弱さの印」がモットーの冷酷無比な髑髏部隊らしいキャラ造形でした。

さて、家畜用貨車に詰め込まれたユダヤ人たちは、最初わずかな水をめぐって争う。皆が皆欲望丸出しで自分のことしか考えない。こういう普通でない状況にさらされた人間の、ありのままの本音の姿を愉しむ・・というのは
「ソウ」シリーズや「キューブ」シリーズのようなシチュエーションスリラーの一派として名を連ねられる実力は十分にあるのではないかと思いました。狭苦しくて暑苦しくて不衛生で水も食料も全くない中、すし詰めにされた人間がどのように朽ち果てていくのか異様にリアリスティックに描かれており、オリヴァー・ヒルシュビーゲルも人の極限状態のヤケクソを見せてくれたし、こういうのはドイツ民族の得意技なのかな、とも思いました。まあ必要以上にリアルかつ希望のない内容で、しかもしつこく長い。閉塞的状況の割には相当ボリュームのある映画です。

ただ進行に変化も波もない映画かといえば、全然そんなことはなく、色とりどり楽しませてもらえます。何故かといえば列車だから駅やら信号で停車するし、徐行することもあれば途中道を歩く市民と窓から目があうこともあるわけですね。ユダヤ人たちは行き過ぎる人々に「水をくれー!水をー!」と嘆願するが、人々は見て見ぬふりをしたり戸惑いつつも冷淡です。
”民族の敵”に水や食料を与えるわけにもいかない心情は理解できるがなんて救いのない世界だろうと思いました。子供の手を引いたシスターも戸惑うばかりで何もしてはくれないのです。

水くれ水ーー!!

いよいよ水は尽き最悪の持久戦が始まりますが、いいのか悪いのかなかなかアウシュビッツには到着できません。いっそ早く着けばいいのに・・そんな風に言うユダヤ人もいます。ユダヤ人たちは薄々自分らは殺されるんだとわかってるけど、最後の希望、
"働けば自由になる(Arbeit macht frei)"を信じるしか無い。行き先には宿と食事が待ってるかも…もう少し働けば生きて帰れるかも…戦争が終わるかも…こう信じていれば何もせずにしていても安心だもの。何か行動を起こせばすぐ死に直結するこの状況。言う通りにしてればいいというのは強烈な誘惑である。人間は信じたいものしか信じない。これはその好例だろう。

さて、長い道中時間はあるし工具を使って列車の鉄格子を切ってしまおうとギコギコやったり、脱走を試みるが、とある駅で停車。なんでも先が詰まってて当分動かないという。そこにウクライナ人のSSがドーンと現れる。
「連中は悪魔だ。何ごともなければいいが…」

もうウクライナ人の極悪さをこよなく愛する僕としては、悶絶するような展開(笑)。詳しくはTwitterをどうぞ(笑)。

彼らはボリシェヴィキの暴政に長年苦しめられており、共産主義者とユダ公を魂の芯から憎んでいる。心の底からナチスに協力していた極悪カンパニーである。

このウクライナSSにユダヤ人に水を配給するよう命令するクレヴァス。バケツ一杯の水を奪い合う人々。だがまだよかった…。

ウクライナSSは不意に絞首台を建設し始める。誰を何の理由で処刑するつもりなのか全く聞かされることは無い。".わからない"ということは極上の恐怖をもたらす。人々は窓からそれを戦々恐々しながら見守るしかない。そして数人のユダヤ人たちが絞首台に引っ立てられ、無残に処刑!だが人々は自分が選ばれなかった喜びを隠そうともしない。仕方ないでしょう。そしてこの処刑シーンは極めてリアル。ここまでしなくても良かったと思う(笑)。

ウクライナSSの暴虐はまだ終わらない。酔っ払ってるのかなんなのか。グヘヘヘと笑いながら、周囲はお祭りのように歌うたいながら列車の屋根から文字通り這ってにじり寄り、窓から鮨詰めの車内に向かって短機関銃を乱射するという前代未聞の暴虐シーン…!車内は阿鼻叫喚に!これには絶句…!この世で最も意味の無い暴力…言葉を失います。。なぜここまで憎めるのでしょうか…欧州の歴史の複雑さはまことに不可解です…。

グヘヘヘ・・ユダ公はいねが~


列車はついに走り始めました。お次の駅ではドイツ国防軍の陸軍部隊が飯を食って休憩しています。ユダヤ人たちは彼らにも水や食糧を嘆願します。そして陸軍兵士たちはこころよく彼らに水や食糧を与えるのです。だがそれをみてクレヴァスは激怒!拳銃をつきつけます。すると陸軍兵士たちも銃を向けて一触即発!クレヴァスが叫ぶ。
「何するんだ!?銃を向けるなんて!報告するぞ!!」そこで陸軍側が「こんなことして何になる。威張ってられるのも終戦までだぞ」と返す。ぐぐぐ…と言葉をつまらせるクレヴァス。もうこの戦争は負けだ。ソ連軍がすぐ来る、ともはや誰もが知っていました。それでもこんな無益なことが続けられたのです…このシーンは「鷲は舞い降りた」を連想させるシーンでした。国防軍はいい人ばかりのナイト様よ!と勘違いしてはいけないが、やはりSSに比べればまともな人も多かったと考えられています。これはグイド・クノップもそう言っていました。


非の打ち所のない正論


でもこの狂った中尉には届きません


さて、地道な脱出工作で、ユダヤ人が二人逃げますが、見つかって機関銃で射殺される!だが事態はそれだけでは済まなかった。列車を止め、誰か工具とかそういうの持ってるんだろう、とクレヴァスがユダヤ人たちを整列させてこういうわけです。

幼い少女に拳銃をちらつかせ、脅迫するクレヴァスだが、少女は何もみてませんと主張を変えない。クレヴァスは流石に子供を撃ち殺すのは嫌だったのか、
無関係のお爺さんを射殺!あんまりな仕打ちである。これはひどい。。

お次の駅にとまりました。隣の列車はのんきに洗車などしております。ユダヤ人たちはその放水する人々に「水をー!!」と嘆願しますが、なんとニヤニヤ笑いながら無視!そこでこの野郎!とユダヤ人たちは腕時計や貴金属などの切り札をここで使ってしまうことに!するとこの駅の職員たち目の色変えて水を放水し始めました。腕時計や貴金属を物色し放題。クレヴァスに怒られるまで続きます。欲望のままに水をぶっかける姿はなんとも醜い。だがおれもそこにいたら迷わず水をかけて貴金属を奪うでしょう。

列車は走り始め、今度こそ失敗は許されないと石で列車の床を壊して穴を掘ろうとするユダヤ人たちだが、餓死、衰弱死が続発しアウシュビッツももはやすぐそこであった…。

ユダヤ人たちの結末がどうなってしまうのかは皆さんの目で確認して欲しい。

ついに列車はアウシュビッツへ・・結末は皆さんの目でご確認を

とかく銃殺よりも強制移送の方がまだ残酷ではないと無意識に感じる人が大部分だろう。
"視界の外は思考の外"とどこかの偉いやつが言っていた気もする。このような列車のなかという、人の目に触れない世界を映像化することは単に意義深いだけでなく、資料的価値を持ち、ヒトラー政権の残虐さを改めて我々に教えてくれた佳作である。そしてエンターテイメントとしても十分成り立っている。オススメの"戦時映画"だ。




 

 

 

戻る