>>戦争映画中央評議会

ヒトラー暗殺 13分の誤算

アルトゥール・ネーベの死にざまに合掌

 

拷問度

100

絞首刑度

100

ゲシュタポ怖い度

100

総合得点

80


2015年ドイツ映画。
オリバー・ヒルシュビーゲル監督作品。

思えば戦後60年のあたりでこの監督が作ったのが「ヒトラー最期の十二日間」だったと思うのだが、これも当時劇場で楽しませてもらいました。

ヒトラー 〜最期の12日間〜

 ヒトラー暗殺が舞台の映画と言えば、やはりシュタウフェンベルクの「ワルキューレ」、暗殺ではないがよく似た関連作としては「白バラの祈り」などが挙げられる。どちらも名作ゆえ観るべき映画だ。他にも色々ありまくりなので探してみてください。

ワルキューレ

白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々

今回の作品は対ポーランド戦が始まったわずか二ヶ月後に企てられた暗殺計画が舞台で、物語は基本的に史実通りに進む。

犯人はゲオルク・エルザー。田舎の家具職人で、学もなく、どこの政党にも属さず、後ろ盾もないただの男であった。

 

ナチはエルザーの背後関係を徹底的に洗うのだが、尋問を担当するのはなんと、秘密国家警察(ゲシュタポ)長官ハインリヒ・ミュラーと、刑事警察(クリポ)長官アルトゥール・ネーベである。。一見これ本当か?と疑ってしまうほど贅沢な布陣である。。だがこれが史実だというのだから、いかにナチの首脳部がエルザーの尋問に力を入れたかわかるだろう。どちらも超大物戦犯……どちらも裁かれてないので候補だが……である。と言っても二人とも開戦時の階級で、親衛隊上級大佐だ。

さて、この頃の国家保安本部(RSHA)について簡単に説明せねばならないのだが、クリポもゲシュタポも保安警察(ジポ)の一部局という扱いで、保安警察が保安部(SD)に合流して国家保安本部と呼ばれることとなったわけである。ゲシュタポは政治犯の拘束などでイメージしやすいと思うが、クリポはライヒ領内の凶悪犯罪の捜査がお仕事である。とはいえ、東部戦線ではユダヤ人狩りの特殊部隊にクリポ隊員が供されることも少なくなく、ネーベ自身その司令官として大量殺戮を指揮した。一番破壊と殺戮が凄惨だったベラルーシ付近でメチャクチャ殺しまくったようである。この映画ではちょっといい人的に描かれているのが気になった。大変に複雑な人物で、簡単にこうとは言えないお人である。

刑事警察はいわゆる一般警察業務をメインに遂行していたと言えるが、上記のごとくナチ思想の体現者として政治警察の一部門として、SS隊員として、その手のお仕事をすることも珍しくなかったのである。

当時は保安警察及び保安部の長官といえばラインハルト・ハイドリヒであり、ネーベやゲシュタポミュラーに対して「さっさと吐かせろおらー!」とどやしつけられる存在といえばハイドリヒぐらいしか居なかったと思われるのだが、この映画の中でそんな役回りで登場するハゲ頭の親衛隊中将は、顔は似てないわ、親衛隊大将閣下などと誤訳されているわ、勲章の付け方はデタラメだわで、もうハイドリヒのはずなんだけどもう架空の人物と言ってもいいレベルの適当なキャラ造形であった。劇中、エルザーを直接ボコるシーンなどもあるのだが、ヒトラーを褒め称えながらボコりまくるその狂気のお姿はステレオタイプそのまんまの馬鹿なナチ将官であり、「あの老いぼれが何かしくじったら自分が真っ先に葬ってやる……」のイメージが強いハイドリヒというには違和感があった。まあ一般的には些細なことなのだろう(笑)。

第三帝国極悪伝説 ラインハルト・ハイドリヒ

エルザーの背後にドイツ共産党やイギリス諜報部の影があるに違いないと自白を強要するネーベとゲシュタポミュラーだったが、エルザーは生年月日と名前さえ言おうとしない。そこで二人は(つうかキチガイ丸出しだったのはゲシュタポミュラーで、ネーベは後でも述べるが人間的キャラ造形であった)エルザーを拷問!鞭打ちや指の爪に火であぶった錐を突き刺すの刑などを執行する。取り調べが終わった後も独房を超明るく照らして夜も眠らせない拷問を敢行。手で顔を覆っていたら「手で顔を覆うんじゃないぞこら〜!」と監視員が一晩中見張っているという徹底ぶりである。拷問シーンは大変楽しく観れる。この映画の見所である(笑)。

でも恋人を人質に取られとあっさり自白。でも単独犯だと主張するエルザーの言うことが信じられないニセハイドリヒは、自白剤やら使ってでも背後関係を吐かせることを二人の部下に要求。エルザーはズタボロになっていく。

とまあ、尋問や拷問のシーンはかなり酷いというかスリリングに観ることが可能なのだが、その合間合間で過去に戻ってエルザーの人生がゆっくりと描かれる。不倫の合間合間でナチ支配に反感を持つようになっていく様子が描かれているが、本人は終戦直前に死刑にされており、過去のシーンは想像が多いと思われる。よってヒリヒリと脳髄に痛みを感じつつも楽しく観れるのは尋問パートであり、過去のシーンは特にストーリーと絡まない恋愛シーンが多く含まれておりやや眠いのが残念。

さて、エルザーはダッハウで処刑されてしまうのだが、その前に処刑されたのは実はネーベであった。ネーベは上記で述べたごとく、独ソ戦が始まると特殊部隊を率いてユダヤ人の虐殺作戦を派手に行ったのだが、シュタウフェンベルクのワルキューレ作戦に協力して逮捕され、ピアノ線で絞首刑にされた。ネーベが裏切った理由は謎だが、この映画を観ているとエルザーの志にひっそり共鳴していたからなのかなあ、などと思うしかない演出。実際そんな簡単な話ではなかったはずである。東部戦線でアインザッツグルッペを率いてホロコーストの現実を目の当たりにし、嫌になったのかもしれない。空前の殺戮を指揮した罪悪感とかもあっただろう。もう負けるとわかってる戦争、順調にいけば自分は戦犯…ヒトラーを暗殺すれば自己保身も図れる、という打算もあったはずである。ネーベをいい人だの、人間への一抹の希望と捉えるのは超短絡的である。

とはいえ、この辺は歴史の闇に埋もれた謎だが、一つの映画の幕引きとしてはうまいことまとまっていると思われる。絞首刑のシーンはこの監督らしい超悪趣味残虐映像で、精神的に不安定な人は観ないほうがよいだろう。個人的には楽しかったが(笑)。

監督自身はネーベに対してシニカルな目線があったからこのシーンを撮ったのだと思うが、見る人が見れば「いい人が残酷に殺される酷い映像」と捉えるかもしれない。上記のごとく、ネーベ自身はこんな目にあってもおいそれとかわいそうなどと言える人物ではない。かなりの極悪人で当然の報いともいえる。そこはぜひ理解してほしい。そこがわかれば単なる悪趣味映像ではなく複雑な人物の複雑な人生の幕引きとも言える。奥の深いシーンとなるだろう。

ちなみに今作でメチャクチャな冷血ブリを見せつけたハインリヒ・ミュラーは、戦争が終わる前に突如失踪。その足取りは霧のごとくつかみどころがなく、今に至るまでその消息は謎のままである。この歴史的事実が一番後味が悪いと言える。さすがゲシュタポ長官といったところだろうか?

 

 

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