ホロコースト 〜アドルフ・ヒトラーの洗礼〜

完璧な殺戮機構

軍服度

100

官僚度

100

悲惨度

100

総合得点

85



02年フランス、ドイツ、ルーマニア、アメリカ映画。

元軍の科学者クルト・ゲルシュタイン≪オーバーシュトゥルムフューラー(親衛隊中尉)≫は衛生学の権威としてナチスのために働いていたが、ナチスの障害者絶滅計画
T4で可愛がっていた姪を殺され、強制収容所で青酸ガスを使用したユダヤ人の殺戮を目のあたりにし大きく衝撃を受ける。

ゲルシュタインは親衛隊内部で虐殺を幇助しつつも、任務をサボタージュしたりスウェーデン大使にかけあったり、カトリック勢力など、ナチスと中立を保っていた第三勢力にかけあってドイツを告発しようと奔走。しかし実を結ばず非業の最期を遂げる。
 


ストーリー自体は単純なので大変みやすい映画である。カトリックも連合軍も中立国も、ユダヤ人の弾圧には冷淡であった。残念ながらこれが実態で、個人の散発的慈善行動はあったにせよ、国をあげてユダヤ人を助けます!あたしんとこに任せて!という国や勢力はどこにもなかった。ホロコーストが滞りなく進んだ原因はここにある。

そもそも最初はナチスもユダヤ人を殺すのではなく、財産分捕って無理やり亡命させればそれでよかった。アドルフ・アイヒマンがその辺うまくやろうとしたのだが、肝心の受け入れ国が見つからなかった。アメリカもイギリスもノーユダヤ!で一致していたし、マダガスカル島に追放する計画も対英戦争に勝てばこその話だった。結局追放する場所がどこにもないんだから
殺して焼いて天国に飛ばすしかないじゃん。と、簡単に言えばホロコーストはこういう流れとなる(笑)。

この映画の見所は、ゲルシュタインはホロコーストとか反対なんだけど、ナチス親衛隊の官僚機構に絡め取られて、高官と親しくつきあわなきゃならない上ホロコーストにも協力せざるを得なくなっていくんだ、、そこでその辺の罪の意識とかもあってゲルシュタインが実りの少ない抵抗運動を半ば以上ヤケクソになりながら遮二無二やっていくのだが、表立ってナチスに反対すれば家族もろとも強制収容所で自分が青酸ガスであの世行きだ、、ケチなサボタージュや頼りにならない第三勢力にかけあうとかしかできることがない。

そんなゲルシュタインがシニカルな目線で虚無感にとらわれながら眺めるナチの虐殺実行犯たちの人間模様。
クリスティアン・ヴィルトと思われる大物親衛隊員や、ゲルシュタインの上司としてたびたび不気味な存在感を見せる親衛隊医師の姿。親衛隊医師は名がはっきり出ないのだが、ヴィクトール・ブラックで間違いないと思う。この医師はT4作戦にも主要人物として登場するし、階級も≪オーバーフューラー(親衛隊上級大佐)≫だしな。メンゲレという噂があるが階級的にもやってた仕事にしてもそれはあり得ない。だがヴィクトール・ブラックは戦後南米に逃亡してないから、この医師が最後カトリック司祭の手引きで南米に逃亡するくだりのみ、メンゲレ的といえる、、、これらを考えれば、ブラックやメンゲレをかけあわせた架空の人物ということで名前が出ないのであろう。


怪物的存在感の黒衣の親衛隊の面々に囲まれ無力感にとらわれるゲルシュタインだが、同じく無力を噛みしめる相棒たる教皇庁の秘書官の息子リカルド。これも多分架空の人物ですが、キリスト教的理想を一身に背負った"良い人"なわけである。教皇にも可愛がられるほどの特権的立場だが、リカルドが訴えても教皇とかその辺も煮え切らない。結局教皇庁も無力な立場は同じで、反ナチを表明すればあっという間に地獄行きである。ナチには叶わん。。。祈りましょや。。。そんな程度のフニャチンぶり。。

リカルドはその無力さに絶望し、単身ユダヤ人のフリして強制収容所に乗り込む!だが神はこの勇気と善意に答えることはない。
神などいないからである。あるのは利権と権威主義と偽りの理想のみ。耳障りの良い言葉で大衆を扇動し金を巻き上げ、その甘い汁を吸える自分らのシマを守ろうと必死な権力盲従主義。それが宗教の正体である。

カトリックはナチスを利用しようとさえした。彼らは本質的に協力関係にあったのだ。罰当たりのアカ野郎と異教徒ペイガンのユダ公ジプシーをまとめて葬ってくれるナチスとヒトラー。
カトリックはヒトラーとナチスが大好きだったのである。だからこそホロコーストも無視し、戦犯の逃亡を助けたのである。そんなところに助けを求めてもそりゃあダメに決まってる。

この映画は様式美に満ちた親衛隊の制服を楽しめる映画でもある。
黒衣の32年式ジャーマングリーンの陸軍式など色々出てくる。考証も完璧だが、この映画はご丁寧に悪いやつはみんな黒衣の32年式を着ているのである。戦争後期にはあまり着用されなかったという黒い制服だが、この映画ではあえてホロコーストの主犯格はこぞって黒い制服を着ている。よくみればすぐわかるだろう。ぜひチェックしてみてください。

また、言葉は英語だが往年のドイツ名優が勢ぞろいしており、演技面もいうことなしの素晴らしい映画である。ラストの救いのなさもショッキングだが個人的にはとてもいい。お気に入りの映画です。



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