ナチスの犬
ホロコースト・・オランダでは

移送度 100
ユダヤ社会度 90
感動度 80
総合得点 80


「ナチスの犬」…変なタイトルである。インパクトはあるかも。タイトルから映画の内容を推し量ることは難しいが、「虐殺!ナチス極悪戦線アムステルダム1942」なんて邦題になるよりはずっといいことは疑いない。……いや、悪くないかも(嘘)。

ナチスのホロコーストの残酷さは、ユダヤ人を絶滅させるためにユダヤ人のトップがナチと手を組んで、まずは貧困層を地獄に落としたことである。
ナチスの手先となったユダヤ人たちが大勢いた。ナチスの走狗となって働いた裏切り者たちがいたのである。だが彼らも家族の命を人質に取られたりやむを得ない状況があった。

1942年のナチス占領下のオランダにおけるホロコーストを描いた映画です。オランダ映画。

「シンドラーのリスト」に似た映画かと思いますが、こちらの方が演出面は大人向けで欧州らしいしっとりした仕上がり。言葉も妥協なくしっかりドイツ語を使ってくれているので、演出面で不満はない。それに実在の人物を使って悲劇は実際に行われたのだということを強調する仕上がりも良い。「シンドラーのリスト」の方がエンタメとしては優れていると思うけど、こちらの方が落ち着いて浸れるでしょう。

物語は
ヴァルター・ススキンドというドイツ系ユダヤ人の実業家が、ユダヤ評議会に任命されて、アムステルダムの移送責任者、フェルディナント・フュンフテン、ハウプトシュトゥルムフューラー(SS大尉)、保安警察及びSD司令官(KdS)に協力する。家族を人質に取られているも同然のススキンドは、この保安警察とSDの司令官に取り入り、輸送任務を滞りなく、手際良くやってのける。フュンフテンはススキンドと公私共に親しくなり、ススキンドは家族を守るために同胞をドイツの収容所に送り続ける。

フュンフテン。カール・マルコヴィクスに似てる気もする。



SDは労働だと言ってるが、赤ちゃんや妊婦や老人までいるのに…どうもおかしい…ナチスのこの移送政策に疑問を持ち始めるススキンドは遂にナチの目的がユダヤ人の絶滅だと気がつく。そうなると自分の立場を利用して少しでも人助けをしたい…こう思うのは当然ではないか。

無論ススキンドは加害者でもある。だがナチの体制に従順に手を黒く染めたからこそ奴らを欺き、人々を救うこともできたのだ。加害者でもあり救済者でもある。この時代、善人が善だけを成せば済むような単純な時代ではなかった。救済者はしばしば虐殺者でもあった。あるホロコースト研究者は、ユダヤ人を救ったことのないSS隊員はほとんどいない、とまで断言する。このような人間の立場の複雑さとそれに伴う心の葛藤をうまく描ける人間は日本にはいない。日本人が作ればバカガキでもわかるような勧善懲悪のバカバカしくおめでたいドラマに仕立ててしまう。日本人にはこういう映画は永遠に作れない。おれはそれを残念に思う。

家族を守るために黒い仕事に手を染め、家族を危険に晒してまで人々を救おうとする。その姿には壮絶なものを感じる。

一方、フュンフテンSS大尉もホロコースト政策には根っこのところで反対なのは冒頭で既に知れる。無抵抗の人々を殺すのか…と上司に訴えるシーンがある。上司は
恥知らずの腰抜けと罵る。だが彼も巨大な虐殺機構の歯車の一つであり、鉄の忠誠を強いられたSSの中にあり、そして不幸にも保安警察とSD(保安諜報部)の司令官という立場でもある。職務を全うせねばならない。このような時代でなければユダヤ人と親友にもなれた弟想いの優しい男だったのに。クリークイストクリーク、ウント、シュナップスイストシュナップス…。現実のフュンフテンがどういう人物かはおれの手元にも情報はまったくない。だが少なくとも映画の中では以上のように描写されている。ハンナ・アーレントの"悪の凡庸さ"を思い出させられる。悪へ至る道はどこにでも開かれているのだ。


”移送”の実行部隊は警察官が担うことも多かった。
警察とSSは徐々に同化しつつあったが、まだまだSSとは無関係の部隊も多く・・
彼らは普通のドイツ人だった。


フュンフテン役は「ヒトラーの贋札」でユダヤ人役をやってたカール・マルコヴィクス。孤独で心に翳りのある悲しげな演技がなかなかグッとくる。
ユダヤ人であるススキンドを気に入り信頼し親友のように思い、優遇措置を取るが、移送のサボタージュを秘密裏に行うススキンドを見て裏切られたと感じる。どんな人間も親衛隊の軍服を着たら化け物になったという。


"軍服を着ていないと、連中は皆、空っぽの存在だった。私が上着を着せてやり、彼がブーツを履いて軍帽をかぶると、いきなりモンスターになった"
あるSSに仕えたユダヤ人の言葉だ。
フュンフテンも例外ではなかった。心優しい孤独に苦しむ人間だった。しかし彼も強大な権力を持つSDダイアモンドを左袖につけた"高級突撃指導者"だった。ススキンドにとってはそれが命取りになった。

人間の複雑さを描くことに関してはやはり叶わないな。
良い映画です。ホロコースト映画としては及第点どころか、新たな発見もあるでしょう。

 

 

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