硫黄島からの手紙

ある種の到達点

真剣度 100
客観性 100
演技力 100
総合得点 95

イーストウッドの硫黄島プロジェクトの後編です。

何と驚くべきことに全てが日本側からの視点で作られています。アメリカ人の監督がこのようなお互いから見つめるという、当然あるべきはずなのに誰もやらなかったことをやってのけたのには素直に感嘆し、賛辞を送りたいと思います。

この2部作は戦争映画が求めるある種の到達点に達していると思います。というのも、そのようなテーマ性云々に関わらず、映画自体の出来が素晴らしいといえるからです。

まず映画を見通して、脚本も監督も製作も全て米国人であることに驚かされます。

日本に関する描写が今までのハリウッド映画と比べ、考えられないほど真実を突いているからです。

ある意味日本人の監督には中国やら半島が気になってとても今世紀中には撮れないであろう演出に満ちております。これは新鮮な体験でした。政治的立場を気にせず自由に撮る事ができるからこそこの映画は生まれたのであります。

そう考えるとアメリカは日本よりははるかに日本に関しては言論が自由であるといえそうです・・。これはある意味情けないことともとれますが、自国のことを客観的に描写するのは難しいことです。

マンダレイやドッグビルを撮ったラース・フォントリアーが飛行機恐怖症でアメリカに来たこともないデンマーク人であり、ひたすらダークなアメリカを撮り続けている映像作家であることは有名な話です。

さて余談はこの程度で映画の話をします。

ストーリーは栗林中将(渡辺謙)が硫黄島に着任するところから始まり、着くやいなや海岸での水際戦術を改めて島全体を地下要塞に改築し、
敵を引き込んで1日でも長くゲリラ戦をするという方針にかえます。

これには周囲の反発を食らいますが、現実に当時の大本営が本土決戦までの時間稼ぎである沖縄戦までの時間稼ぎとして硫黄島を選んでおります。決戦して華々しく戦果を挙げるよりは穴蔵にこもって1日でも長く米軍主力を引き止めて、その間に本土決戦の準備を整えるという、
最初から勝利を想定していない戦いでした。

島にいた小笠原兵団は第2線級の師団や警備隊で、ほとんどがその場しのぎでかき集められた訓練もままならない烏合の衆でした。憲兵隊をクビになって送られてきたという清水の設定もこれを考えると実にリアリティがあるわけです。

で、話がそれましたが映画の前半はこの要塞を工事するシーンと、米軍が上陸してくるまでの兵隊の心境などを、二宮和也が演じる西郷という兵隊を通してウェットに語られていきます。この西郷は劇中階級等が不明ですが、おそらく最下層の兵卒か、二等兵といったところでしょう。一番軍隊ではしょっぱい立場の人で、もともとあまり戦意も愛国心もないので上官にしょっちゅう怒られているというさえない役です。

憲兵隊のエリート士官であったがクビになって、硫黄島に左遷された清水(これもおそらく二等兵??)も重要な役です。

この加瀬亮という役者、よく知りませんが実に素晴らしい演技でした。正直、二宮はどうなんだと思ってしまうのだが、この人は実に当時の軍人(特に憲兵隊をクビになった二等兵という感じの 笑)らしい、凛としているがどこか影のある雰囲気というのがうまいのです。

あとは戦車連隊の
西中佐(伊原剛志)、海軍警備隊の伊藤中尉(中村獅童)などが主要人物であります。

正直前半は、人間ドラマ中心でしかもけっこう長い。しかも軍隊用語がガンガン飛び出し、聞き取り辛いので、連れも寝やしないかと気になってしまったぐらいだが、この辺は退屈なようでそれぞれの主役たちの人間性を突き詰めるためにもやはり省けないのだろうなあと思います。

それに、不意に米空軍の威力偵察と爆撃が行われるや、あっという間に上陸作戦も始まり、地獄のごとき殲滅戦があれよあれよと進んでいきます。

戦闘シーンは多すぎず少なすぎずといったところです。ところで様々な方面で言われてることですが、栗林中将は今でもアメリカ海兵隊に置いて割りと名将と名高い人らしくて、タラワとイオウジマと言ったら海兵隊員なら誰でも知ってるぐらい激戦地と有名らしい。
にもかかわらずこの映画は戦術的に、日本がどう優れてたかとかは、全く取り扱ってません。

栗林や日本兵がどう優れてたのかってのはこの映画観たって全然わかりようがないです。

これはイーストウッドの
「戦争に英雄はない」という信念に基づいた意図的な演出であるように思います。だから日本が活躍する映画という認識で行くと痛い目にあるかも?でも地熱40度、水源も食い物もない穴蔵で一ヶ月戦ってたってのを聞いただけで当時の軍人の精神力のすさまじさが伺えるのですが・・

また2万名いた小笠原兵団は朝鮮人軍属や負傷してやむを得ず・・という例を除いてほとんど自決、玉砕、戦死を遂げています。まー半端ではないのです。狂信的とも言えます。過労死するまで働き続けるサラリーマンと比べるとあまり日本人も変わっていないのかもしれませんが・・

とりあえず戦闘シーンはほとんど自決や無謀な突撃、悲惨で目を背けたくなる痛々しい描写ばかりで、活劇モノとは縁遠いものがあります。まーおれはこういうのが大好きなんでいいんだけども。特に伊藤中尉が玉砕しようと対戦車地雷を巻きつけて一人戦場を放浪するのだが会敵できずふてくされてるところを捕虜にされてしまうというシーンは皮肉がきいててよかった。
華々しく散ろうったってそうそううまくはいかない。

結局戦場での地獄も派手なエフェクトはないものの、日本兵がアメリカ兵捕虜を嬲り殺したり、逆に治療してあげたり、またまた一方では勇気を出して投降した日本兵をくわえタバコのアメリカ兵がめんどくさそうに撃ち殺したり、非情に客観的で冷静です。特にアメリカ兵が日本兵捕虜を虐殺するシーンなどアメリカ映画では前代未聞では??

非情に公平なのです。両サイドの醜さを描き、戦争の虚しさを表現したかと思えば、日本兵米兵の心の交流を描いたシーンもあり、どちらかに偏るということがない、ここがこの映画の最も優れた部分であると思います。

語れば語りつくせないが、ここで娯楽職人スピルバーグ(製作)がちょいと脚本にも口出してくれりゃもっと派手な映画になったかもしれないが・・この映画のウェットな部分も消えてしまうのかもしれないね。

ウェットと言っても某YAMATO映画のように音楽で盛り上げて泣かせてみせようホトトギスなつくりではなくあくまで淡々としています。しかし重いのです。

実に淡々としているのだが悲壮感は十分に伝わるのです。感動させて金もうけてやろうなんて下心がないからきっとこうなったんでしょうね。すごく好感が持てます。

まだまだ言いたこといっぱいあるがこの辺にしときます。こりゃ観るべき映画です。皆さんも是非!




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