レニングラード 900日の大包囲戦

飢餓

飢餓度 80
ダラダラ度 100
ゆるゆる度 100
総合得点 60

1941年9月のレニングラード包囲戦を描いた映画。

1941年に独ソ戦が始まり、最初の一ヶ月で赤軍は戦力の大半を喪失した。押されて押されて押しまくられ、独軍北方軍集団はレニングラード包囲に成功。約900日に渡る絶望的な包囲戦が始まる。

包囲戦と言っても大規模な市街戦が始まったというわけではない。完全な兵糧攻めだった。ヒトラーは市の食料供給を完全に断ち市民も軍も餓死させて抵抗を排除しようとしたのである。

近代戦においてここまで大規模な兵糧攻めは珍しく、市民の食糧事情は阿鼻叫喚そのものだった。

人々は本の表紙を剥がして糊を食った。食糧倉庫が爆撃されればその直下の"土"が売り買いされた。砂糖や油が土に染み込んでいれば、溶かせばおいしいとか。狂っとる。

当然のごとく、歴史上常にこういう場合そうであったように、人肉食が横行した。幸か不幸かロシアの人々はこれより更に過酷な飢餓の時代を経験していた。とっくに気づいていたのである。結局飢えれば人は人を喰うのだと。

さあ、なんかテーマが戦争映画と関係なくなってまいりました。
このようにレニングラード包囲戦はまともな戦場ではない。戦争映画の題材としても相当難しいテーマのはずである。

主人公はNKVDの女将校。劇中ほとんど説明はないのだが、映画冒頭の彼女の言動や制服からそうではないかと判断できる。すなわち、前線の部隊に銃を突きつけ突撃させるのである。「部隊」と言ってもだな、その辺のおじいちゃんを突っ込ませてるだけなの(笑)。武器も持たないおじいちゃんもいるの。軍服すら着てないおじいちゃんもいるんだよ。そんな烏合の衆を完全武装した独軍装甲部隊に突っ込ませるヤケクソっぷりは本当に美しい。末期ベルリンの国民突撃隊《FOLKSSTRUM》みたいだ。逃げるおじいちゃんもいるけど、「臆病者は射殺しろ!!」といつものかけ声で撃つんだぜ。で、突っ込ませて全員死ぬの。NKVDはああまた負けた〜って詰所に帰るんだよ。狂っとる。そんなのが主人公なんだから。冒頭のパンクさに心を奪われたおれはこの映画はひょっとして当たりなのでは…と期待したものである。(低予算の戦争映画は滅多に良いものがないのよ)

だが、冒頭で心をグッとつかんでおいて、そこでどうやら予算が尽きたらしい。グダグダダラダラの人間ドラマにシフトチェンジしてしまう。戦闘シーンは随所で少しあるけれども、本当に少し。ただルフトバッフェ(ドイツ空軍)が空から市民を襲うシーンはそれなりに用意されており、そこまでちゃちでもないし、なかなか楽しめます。Bf109も違和感なく活躍していました。でも基本的にはこの映画を構成するのはダラダラとした人間ドラマである。

まあ、兵糧攻めという性質から、戦闘シーンはほとんどないだろうと予想はしていたからまあいいのだけど、じゃあ問題の飢餓に苦しむ市民のシーンをたっぷり丹念に撮ってもらいたかったのだが、主役がまずNKVD将校だから配給券とか優遇されてるしね。そんなにひどい目にあわないのである。

飢餓に苦しむ市民のシーンはたくさんあるにはあるが、ここでこの映画は大失敗をやらかしてる。全然飢えてるように見えないのである。食べ物なくて今にも死にそうな子供たち。顔色は土気色だし生気のない演技もがんばっている。土とか食ってグッタリしてるしいいんだけど、やはりダメだ。

なぜなら痩せてないからである。市民は全然痩せてない。厚着してごまかしてるんだけどやはり痩せてないのはみりゃわかる。本当に飢えてたら痩せているはずである。しかし包囲戦が始まった直後から徐々に飢えていく主役とその周辺の人々だが、全然痩せない。体重が変わってない。体型も変わってない。頬もこけてない。とにかく痩せてないのである。これでは飢えに苦しんでいるようには見えない。どんなにがんばってもこれではリアリティを感じられない。リアリティを感じられない戦争映画は失敗である。いつの時代もそうであったように。

「マシニスト」のクリスチャン・ベールぐらい全ての登場人物が痩せていれば言うことのない傑作になったはずだ。非常に惜しい。そして残念。だが、エキストラまで全部痩せさせるなんて無理だよなあ。映画の表現として"飢餓"という状況は難しいのだな、ということに今更気づかされました。製作者たちもおれに言われるまでもなくわかっていただろうし。

ちなみにレニングラード包囲戦を描いた劇小説、デビッド・ベニオフの「卵をめぐる祖父の戦争」はかなり完成度の高い娯楽小説だが、映画化が期待されている一本である。ここで描かれる飢餓の描写が一体どうなるのか今から楽しみで仕方ない。是非この映画の犯した失敗から学んで良い映画を作ってもらいたいと思います。

ただこの映画は良いところもあります。ロシア人がロシア語を、ドイツ軍はドイツ語を話していることである。「卵をめぐる祖父の戦争」はアメリカ資本になりそうだから、言葉の問題が心配である。どいつもこいつも英語になってしまいそうなのだ。まあ今から心配しても仕方ないですけれども。



 

 

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