マイ・ファーザー 死の天使 アウシュヴィッツ収容所 人体実験医師

戦犯のカリスマ性に圧倒される

演出度 100
盛り上げ度 100
緊迫度 100
総合得点 85

アウシュビッツ収容所にて、労働に適するもの、実験に適するもの、死なすべきもの、として命を管理していたナチス親衛隊医師、ヨーゼフ・メンゲレを巡る異色のサスペンス。
彼は西側世界において「死の天使」とあだ名され、その死が確認された後も、恐怖の象徴として存在感を維持し続けた。
彼はアウシュビッツ収容所で数々の生体実験を手がけ、数千人の囚人を殺害した。
囚人の瞳の色を変えるために注射をして失明させたり、人間を生きたまま凍らせてどれぐらいかかって死ぬか実験したり、母親の乳首を手術でふさいで乳児がどれぐらいかかって死ぬのか実験したり、不潔だからと処刑したり、何かと理由をつけて生きたまま解剖した。
また彼は双子に異常な興味を持ち、生きたまま解剖したり、双子同士の静脈をつなぎ合わせたりして人口のシャム双生児を作る実験を行った。

彼の行った実験は倫理性も科学性も著しく欠如していたが、その実験結果にアメリカは興味を持ったという。(アメリカは関東軍防疫給水部本部、通称石井部隊、731部隊の生体実験にも興味を持って取り入れた)
ナチス崩壊後、イスラエルの諜報機関「モサド」はナチの逃亡犯を捜索、拉致すると言う秘密任務を実行していたが、メンゲレはモサドの追及を振り切り続け、裁かれることなく秘密を抱えたまま闇に消え去った。
これはメンゲレ医師の息子であるヘルマン(トーマス・クレッチマン)の告白を基にした彼の自伝的物語である。

ヘルマンは殺人医師を父にもつというコンプレックスを抱えてずっと後ろ指を差されながら生きてきた。そんな彼が、南米に潜伏している父にあうため、そしてできることなら理解することを期待して、父にあうために旅立つ。
しかし、現実に会った父、メンゲレは強烈な男だった。ナチの生存原理を研究した遺伝学者の博士として、全く揺るぎのない信念を持っていた。曰く、劣等人種を救うことは自らを破滅に追いやることである。我々は理想のために戦った。やましいことなど何一つしていないと。
ヘルマンは父を警察に突き出すか守り通すのか葛藤する。
人間としての倫理と、親子の絆のどちらを選ぶのか葛藤するヘルマンの演技が最大の見所だ。
非常に演出が効果的で、音楽をからめながら劇的に父に対して彼の犯罪を告発するシーンはビリリと来る。
公的な正義感と親子としての絆。はたして人はどちらをとるのか・・この深いテーマ、是非ご覧あれ。
個人的には、非難する息子に対して一歩もひかずナチスの生存原理を力説する親父の姿にはけっこう圧倒される。けっこう説得力があるかもしれない。
「この穏やかな森林を見渡してみろ。この木一本一本でさえ土や日光を奪い合って生きている。この森でさえ戦場なのだ。今を生きるお前にはわかるまい。」

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