激動の昭和史 沖縄決戦

おもしろいです。

真面目に作っている度 100
グッと来る度 100
玉砕度 100
総合得点 90

71年日本映画。東宝。岡本喜八監督作品。日本の一番長い日の前哨のような映画です。149分と長いがDVDで観るなら気にならないだろう。古い日本の戦争映画は実写映像とモノローグのセットがお決まりだったりするが、岡本喜八の場合、タイトルの切込みがいつもシャープでニヤッとしてしまう。今作も導入部が実にヤケクソ満載で、その時点でかっこよすぎる。軍司令官が公民館みたいなところで沖縄県民に玉砕の覚悟を決めてもらいたい、と訓示(お願いしているように見えるが)して何故かビンが転がった次の瞬間、「沖縄決戦」と画面いっぱいにドーーンとタイトルがカットイン。その大味ではったりくさい無駄な迫力が大好きだ(笑)。絶対女子供と一緒に観ちゃいけない気がする。実に男くさくてよい。

岡本喜八という人は実に日本人らしい細かくて真面目で筋道立ってないと気が済まないタイプの人だったのだろうか?本当に本当に映画作りはいつもいつもクソ真面目だ。沖縄防衛の第32軍がどうやって沖縄で編成されるにいたったのか、司令官や参謀たちの人となりの解説や、各将軍、将校たちがそれぞれ大本営とはどんな人脈があったのかとかとっても丁寧で説明を省かない。親切すぎる。今こういうのをやると大ブーイングが起こる気がするが、戦争映画っちゅうジャンルは全ての映画ジャンルの中で最も予備知識を大量に要求される難解なものである。その点、岡本喜八の映画は当時をよく知らない人が観るのにいいんじゃないか、資料的価値があるんじゃないかなどと思わされる。(個人的に映画観てお勉強したような気になる奴は好かないが)

さてさて、そんなわけで序盤は第32軍が沖縄防衛のためにどういう準備をしたのか、さんご礁付近に陣地を築いたり飛行場を設営したり水際戦術を吟味したり、第32軍司令官牛島中将や八原高級参謀、長勇(ちょう いさむ)参謀総長の目線で物語が進む。旧日本軍の愚鈍の象徴たる
とにかく突っ込めばいいんだよ、という戦術で沖縄戦を戦おうと考えている人は1人もいないことが強調されている。比較的に無責任で無理解な上司として描かれる大本営ですら、映画冒頭で「どうか玉砕は・・玉砕だけは・・控えてもらいたい・・」と牛島に釘を刺す。八原は軍主力を温存し、沖縄本島南部のサンゴ礁に陣地を構えて1日でも長く持久戦を展開することを計画し、その前提で作戦を立てる。そもそも華々しく決戦しようにも飛行場を作れと大本営に言われてしょうがなく作ったが、飛行機が全く送られてこないのだから32軍は憤るしかない。いったいなんなんだよと。大本営の作戦ミスで第九師団も32軍より抽出されフィリピンに送られてしまう。いったいなんなんだよと。邪魔ばっかりしてるんじゃねえよと。そりゃあそう思うしかない・・。でも途中で放り出したりせず勝利なき戦場で1日でも長く持久するため黙々と働く男たちには頭が下がります。死ぬとわかっている戦いに、負けるとわかっている戦争をどうして続けられるんだろうか?これは「ペリリュー・沖縄戦記」の中でも「当時のアメリカ人はたいがい、死んでも勝つとか死ぬまで戦うとかいった日本人の断固たる決意を理解できなかった」とある。

まあそれはいいとして、この本番の戦争まで粛々準備をする牛島たちの姿は「硫黄島からの手紙」の栗林中将を思い起こさせる。というかむちゃくちゃ似ている。
まさかイーストウッドはこの映画を観たのではないだろうか?いい加減な推測は良くないが・・。

持久戦が32軍の方針であったが、実際米軍との戦闘が始まると海軍は菊水作戦(カミカゼアタックのことよ)をやるといってるし、大本営は「こもってないで打って出ろよ」と干渉してくるし、司令部要員の中にも伝統的な浸透強襲のドクトリン(要するにバンザイ突撃のこと)で出撃するべきだと論ず者が現れる。
見所はその辺の第32軍司令部の人間模様だ。牛島司令官は寡黙な父親タイプ、八原高級参謀は縦深防御を提唱し南部のさんご礁地帯に要塞を作って1日でも長く持久するよう主張する。長参謀総長は1度は総攻撃をかけるべきだ、と伝統的な浸透強襲のドクトリンを主張する。八原博通大佐はアメリカ留学経験もある、理性的で知的な欧米型の思考を持ち、マレー侵攻作戦でも作戦参謀を歴任した人物で、理詰めで地味だが確実に成功する作戦を立案する、日本では異端の指揮官であったという。八原の作戦は非常にシンプルだった。「日本兵はひたすら陣地内に潜み、自らが死ぬ前に可能な限りたくさんの米兵を殺すべし」。

八原はたくさんの米兵を殺せばアメリカ世論が厭戦気分へ向かうことを当時から熟知しており、そこにしか日本が活路を見出せないことまでも既に見抜いていたと言われる。
それが正しかったことはベトナム戦史を見れば明らかである。

こうして米軍は八原の作戦に苦しめられ戦線は長期化した。米軍は多大な出血を強いられていたが、32軍主力は無傷で温存されていた。全ては八原の作戦通りに進んでいた。しかし長は違った。彼はいかにも日本軍人らしい好戦的な人物で、強迫的に打って出るべきだと繰り返した。

映画の中で総攻撃を主張する長に、八原が冷静に反対するシーンがある。これはこの映画の最大の見所である。
「君は総攻撃もかけずにこのままやられてしまったとしたら陛下に、国民にどう詫びるつもりだ?」
「誰にも詫びません。その必要はありません。我々は最善を尽くしております!」
と一歩もひかない八原の姿は非常にカッコいい。ジーンと来る・・。こんな冷静で優れた参謀もいたのだね・・。

まあその後は長参謀総長が八原を
泣き落としにかかって総攻撃は決行されてしまう。八原は最後まで反対したという。これは破滅的大失敗に終わり6000人以上の日本兵が死んだ。牛島は目に涙を浮かべて八原大佐を呼び「今後は君の助言を重んじる」と告げたという。ただ、映画の中ではこの反攻を最初成功しているかのように描いており、大失敗したなんてことは誰も言わない。ただただ猛烈な残虐シーンが続くのである。どんどん死んでいく兵隊や民間人、男子学生部隊の切り込みシーンなどどう観ても勝っているようには見えん。こういう表現しかできなかったのが何故なのかは疑問が残る。

なんにしろ、これ以降32軍は組織的な抵抗はほとんどできずみるみる瓦解していく。秀才八原大佐の才能を活かし得なかった日本の不幸が描かれている映画だといえるだろう。もし大本営の作戦ミスで第九師団が引き抜かれずに済み、徹底した持久戦を行えていれば、8月まで持久できただろうという八原の言葉は重い。

沖縄軍戦死10万、県民戦死15万・・ひたすら虐殺や自決シーンが続く後半はあまりにもむごい映像だ。ラストは死屍累々のこの世の終わりのような海岸を1人てくてく歩く子供が水飲むシーンで幕引き・・。

これはすごくおもしろい映画でした。古いし長いしタイトルも怖いから(笑)観る人は少ないかもしれないが、少なくとも最近の日本映画よりははるかにおもしろいしよくできている。八原大佐がめちゃくちゃかっこいいのでお勧めの戦争映画です。


このポスターめちゃくちゃかっこええなあ・・


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