セデック・バレ

色々ツッコミどころが多い

デタラメ度 80
アポカリプト度 90
昭五式軍装度 100
総合得点 70



2011年の台湾映画で、霧社事件をあつかっている。映画化は初?いずれにしても希少な試みである。前後編から成る長編映画です。

様々な映画の良いところをごった煮にした印象を受けた。山岳民族の狩猟の哲学、そして独特のアクセントのセデック語に関しては、まるで
メル・ギブソンの「アポカリプト」を観ているかのようであったし、超人的な戦闘能力のセデック族にバッタバッタとなぎ倒されていく日本兵の姿と少数民族の儚いが誇り高い姿を重ね合わせる感じは「ウィンドトーカーズ」のようでもあり、主役側が機関銃を乱射するだけで軍隊が潰走し、ナタで首を力任せにぶっ飛ばしまくる山岳民族の超人的な姿はさながら「ランボー最後の戦場」のようでもある。

これらの意欲作に影響を受けているのでは?と思われる本作だが、もちろんオリジナリティがないわけではない。それがまさに霧社事件という題材である。だがこの映画で歴史をお勉強しようと思うのは破滅的誤りである。映画冒頭でいきなりパッとあっさり出るテロップに注目したい。

"事実をもとに脚色している"

これはかなり重要なので4時間半にも及ぶ上映時間中、ゆめゆめ忘れないでいただきたいと思う。

ストーリーは台湾が日本領になる1895年から丁寧に始まり、どのように台湾が日本軍に平定され、占領支配を受けるのか、その流れでセデック族がどのような不当な扱いを受け、差別され、蔑視されていたかをわかりやすくたっぷり描いています。

暴力的で嫌味でスケベで差別主義者の警官など、のきなみ
ステレオタイプ通りの嫌な日本人が登場しますが、あっさりした描写なので嫌な気持ちにもなりませんでした。

ただ一部の人の間で、台湾は親日国で日本統治時代も
ありがたいありがたいと拝まれていたと信じられているじゃないですか。主にネットで。そのような人にとっては納得いかない描写なのかもしれませんが。。

この映画はセデック族が日本の支配を受ける前の伝統的な狩猟生活と、そこから生まれるものの考え方とか、まったく妥協することなく省略せずたっぷり描いているので、いかに日本支配下で、これらの伝統的な生活様式が侵されていたのか、全く知識がない人でもわかりやすいといえるのではないでしょうか。まったく…もうちっと日本人は支配される側の人々の気持ちを考えなさいよと。我々日本人にもそう思える嫌味のない描き方。テーマ自体もイラク戦争とかで普遍的なもの。嫌な気持ちにはならないと思います。

虐げられて虐げられて、もともと
超好戦的な戦闘民族として描かれているセデック族も、勝てないとわかっているが誇りを守るために蜂起しようと覚悟を決める。そして戦い始めるとその強さは化け物じみており、女や子供にも一切容赦ない徹底的無慈悲な姿は、もはや台湾人ですら共感できないのではないかと思います。その戦闘と死の哲学はまさに前近代的なもので、野蛮と呼ばれても仕方ないと思います。実際このセデック族が国家を手中にし、一大帝国を築いたとしたら、ナチスも裸足で逃げ出す悪夢のごときファシズム国家となることでしょう。

しかしそれでも誤解を恐れず断言しますが、このセデック族は魅力的なのです。単純に男としてこのマッチョイズムには憧れるし、無為な生より誇りある死という信念もフィクション限定ならかっこいいものです。彼らの独特の生活様式も珍しく、楽しめます。観賞中、自分が日本人であることを忘れてセデック族を応援してしまいました。だが後半熱もさめてくるのだが…

知ってる方も多いでしょうが、セデック族は蜂起した直後、まず運動会やってる学校に乱入し、女も子供も殺しまくり首を切り落とすのです。その狂的見境のなさも、セデック族の哲学をたっぷり聞かされた上でのことなので、理解できます。ただ、劇中殺されて首を落とされるのは男や武装した警官ばかりで、女や子供に対する暴力は匂わせるのみに終わっています。

実際は殺された140名中62名が子供でした。女も含めれば半数以上は非戦闘員に対する虐殺で、しかも、彼らは子供でも女でも首をはねたのです。

これらの歴史的事実を考えると、この学校での虐殺シーンはやってはならない歪曲をしていると思います。しっかり女も子供も殺して首を狩るシーンをやるべきでした。そうでなければ…

これは文明と野蛮の戦い、と考えていいのでしょうか?戦闘員と戦って勝利の印に首をはねる、というのと、逃げ惑う武器も持たぬ女子供を執拗においたて虐殺し、首をはねていく、というのではモラルの点で既に全く意味が違います。女子供を虐殺することが名誉でしょうか?我々の感覚ではそれは唾棄すべし犯罪で最も忌むべく卑劣そのものではないでしょうか?だが、現実には彼らは女子供を虐殺し、そして首をはねています
彼らにとって女子供であろうと殺すにたる憎き怨敵であり、殺すことは名誉だったのです。この卑劣と名誉の溝が、文明と野蛮の溝と同義であるとしたら、ここで描かれる戦い、或いは蜂起は全く意味や捉え方が異なってくるのではないでしょうか?

この映画が、残虐すぎるから、或いはセデック族を"卑劣"に描きたくなかったから、というような理由でこのような虐殺行為を省略したのだとしたら。むしろその"気遣い"はセデック族を掃討した大日本帝国と同じ"文明的感覚"であることを忘れてはならないでしょう。

さて、大虐殺のあとは日本軍の反撃です。待ち構えるセデック族。ここからが後編となります。

前編まで観た中では、上のような感想を抱いたものの、総じて自分の中では拍手喝采でした。おもしろいな〜傑作なんじゃないか。そう思ったほどでした。しかし後編は完全に戦争映画になってしまいます。製作に
ジョン・ウーが名を連ねていますが、戦闘シーンはど派手なものの現実味は皆無です。ミッションインポッシブルのようなヒーローアクションならいいのだろうが、こと戦争映画というものはリアリティが大事です。一人のヒーローが敵の大軍を片手でなぎ倒すという描写はあってはならないのです(あってはならないというかおれがそういうのが大嫌いなのよね)。

その点この映画はいつものジョン・ウーです。ヒーローアクションなら合格でしょう。しかしいくらなんでも
セデック族が強すぎますよ。無茶すぎます。一気に白けましたもん。。山歩きとか狩猟とかうまいからって、練度も高く近代的な軍隊として統率のとれた日本軍を…完全武装した三千人もの軍隊を、どうしてこうちぎっては投げちぎっては投げができるというのだろうか。その現実味のなさは抗日映画で見られる常套演出であり、いくらなんでもやりすぎの一言です。サイヤ人と地球人の戦いのようでした。

このような現実味のない戦闘シーンが延々続く後編はかなり苦痛です。長さも急に負担になってきます。前編までは長さを全く感じさせなかったのに。日本憎しのいつもの電波すら感じられる後編は
みるに耐えない駄作と断言します。まあ別に日本が憎くたっていいが戦争映画として観た場合、これは本当に失敗しています。ご覧になればわかると思いますよ。

シナリオも荒唐無稽でラストに近づくにつれその破綻が際立ってきます。特にリーダーのモーナ・ルタオが戦闘のさなか仲間を捨てて家族を殺しに行き、自殺したかと思いきや四年後に死体が見つかるだとか、そんなエピソードが最後の最後で語られます。このエピソードを聞くと正直本当に誇り高い戦士だったのかさえ疑問に思います。ただの身勝手な狂人だったんじゃないか?

こう考え出すと、今まで観てきた誇り高い戦士の姿は何だったのか、単なる映画的演出か…
そういえば脚色したって言ってるしな…と一気に興奮が冷めていきました。もはや感動など一切せず、スタッフロールがでた瞬間劇場をあとにしてしまいました。

映画は歴史のお勉強ではないが、歴史的事実を軽視するとこうなってしまう。この映画はそういう教訓を与えてくれました。その意味ではとても"中国らしい"映画で、"台湾的"といえるのかは疑問が残りましたね。

霧社事件の歴史的事実として、もう一つどうしても軽視できないことがあります。それは
毒ガス使用に対する日本軍のスタンスです。この映画では当然のように強すぎるセデック族を屈服させるため、苦肉の策として無能な指揮官が使用を命令しますが、実際の日本軍部はもっともっと悪賢いのです。第一次世界大戦が大々的な化学戦となった教訓に、1919年日本軍部も陸軍科学研究所で化学兵器の研究開発を開始します。それらは大きく分けると三つで、糜爛性と呼ばれるイペリッドガス、ルイサイトガス、くしゃみ性のジフェニール・シアンアルシン、催涙性の塩化アセトフェノンがあります。(日本軍側呼称では、それぞれ黄きい、赤あか、緑みどり、と呼ばれていました。)

日本軍は開発し、演習もしていましたが、実戦経験は持っていませんでした。1925年ジュネーヴ議定書で毒ガス使用は国際法違反となったため、日本側は毒ガス使用に関する軍のやり取りを暗号化し、秘匿しようとした。だが実際使用されたのは催涙性の"緑弾"甲一弾が最有力視されており、映画のようにびらん性ガスを使用した件においては確実な根拠はない。だが、日本側が、びらん性をはじめとした様々な化学戦、ダムダム弾(鉛弾。ダムダム弾も使用を禁止されていた)の創夷研究までしていたことは事実で、この非力な山岳民族に対して"実験"を行ったことは否定できず、セデック族に生存者が少ないことも詳しい検証を難しくしているといえる。

この映画は皮肉にも、
日本軍を無能でアホに描いてしまったばかりに、日本軍の毒ガス兵器使用の実態における極悪さ、悪賢さをはっきり形骸せしめてしまったのです。後続の抗日映画製作スタッフには、この映画がやった失敗からぜひ学んでもらいたいと思います。



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