白いリボン

ドイツ人気質を大批判した映画

ネクラ度 100
パンク度 100
暴力度 100
総合得点 80


第1次大戦前夜の北ドイツの小さな村アイヒヴァルトで不可思議で奇妙な事件が続発する。村人たちの間に相互に不信感が募る。しかしこんな事件が起こるまでもなく、この村を支配していたのは疑念、嫉妬、暴力、迫害、脅迫、陰口・・・であった。

人間の心の氷の部分に執拗にスポットを当て続ける奇人、ミヒャエル・ハネケの作品です。

もう、ハネケの作品は全部観てしまったと思うんだが、この映画はいつもと同じと断言する。全く味を変えるつもりのないラーメン屋、
頑固一徹デスメタル。クリーンヴォイスのコーラスなんて死んでも入れねえ、デスヴォイスだけが心の故郷、ついてこれる奴だけついてきな。省みはせじ。

ハネケの一貫したテーマはデビュー作も、変り種だったファニーゲームも、今作もたぶん似たようなところにある。
人間は悪くて醜い。
自分より弱いものには暴力をふるうし自分より強いものにはこびへつらって嫉妬して転落を願うし、年を取ればしわだらけで息も臭くなるしいつまでたってもセックスと金と食うことにしか興味がないし、他人には無関心なくせに人の不幸はおもしろいし幸福はちっともおもしろくない。
自分以外の人間は皆地獄に行けばいい、そうすればおれは幸せを実感できるぜ、あたしは幸福絶頂よ。

そしてそんな大人にしつけられる子供は子供でおんなじように弱者をいたぶり、強い奴には盲従する。
だって大人がそうしてるんだもの。その秩序に従わされてるんだもの。従ってればいい子と褒められるんだもの。

人間に何の希望も持ってない。いつものハネケだ。

ハネケの作品は少年犯罪と切っても切れない。ハネケ自身が言うように
「教育」がいつも重要なテーマになっている。「ファニーゲーム」の殺人鬼2人も少年だったし、「71フラグメンツ」も「ベニーズビデオ」も少年犯罪の話しだし、一見関係ないような「ピアニスト」も厳格な母に抑圧的に育てられて異常性を養っていった中年女の不幸話だった。

今回の作品も家庭の中では
金日成気取りの髭生やしたお父さんが子供をぶん殴る様子がふんだんに盛り込まれている。お父さんはお父さんで別のもっとナニのでかい奴に抑圧されてストレスを溜め込んでいる。そのフラストレーションが下へ下へと流れ落ちていき、最終的には子供が陰湿な暴力を行使せざるをえなくなる。

この映画では、村人のほとんどが圧倒的な暴力と権力の前にひざまずかざるをえない被害者であるが、ことに
女性と子供の生きにくそうな姿には圧巻だ。こんな時代に生まれたら気にくわねえことあっても誰にも何も言えないどころか、ナニがでかいだけのクソ野郎にペコペコして従ってご機嫌取ったりして卑屈に生きざるを得ない。何にもいいことないしやってられん。暴力性はどんどん歪んだ形で膨張していき発散の機会を待っている。そこでナニのでかい奴が「あいつが敵だから殺して来い」と命令を発すれば、命令に従っていい顔できるし弱いものいじめもできるからストレスも発散できるから一石二鳥。オラオラー!ドイツ人よ!ユダヤ人から買うな!ってなるんだーー・・・とハネケは主張しているのだろうか?

相変わらずハネケは映画に説明的な要素を完全排除していて、観客に想像させる、考えさせるのが好きだが、解釈は自由という意味ではなくて、ハネケ自身言いたいこともあるし答えもあるんだけどそれを簡単には教えてくれないのだ。

おれの上の感想もただのおれ個人の感想だから参考にはならないと思うが、村の名前が
アイヒヴァルトってのが示唆的だ。アイヒマンとブーヘンヴァルトをくっつけてるじゃないか、ってパンフレットに書いてましたからね。多分ナチズムに進んでいくドイツを暗示させたいのでしょう。なんせナチ時代の大人がこの映画の時代では子供だったはずですから、関係大有りなわけだ。

ナチを受け入れてしまった大人たちが子供時代をどう過ごしたのか?既に前兆がこの時代からあったのでは?という切り口で描いた映画なんですね。こういう変わった手法は初めてなんじゃないでしょうか。白いリボンは純潔と無垢を忘れないように、つまり
リボンを巻く奴が巻かれる奴に忠誠と服従を強いる象徴のようなもので、後に親衛隊や突撃隊がつける赤いカギ十字の腕章と同じ意味でしかない。劇中でもご丁寧に腕に巻いて「腕章」にしている。これもそういう意味にとっていいだろう。

ここまでドイツ人気質・文化・伝統を批判した映画は、あまり思い浮かばない。
ラース・フォン・トリアーの「ヨーロッパ」もドイツ人の性質の難解さ、複雑さを描いた映画であったように思う。あわせて観てみると楽しめるだろう。

だが、ハネケもトリアーもはまるとやばいよ。どっちもネクラすぎますから。欧州はこういうペシミストが多いのですね(笑)。

まあ超一級のサスペンスとして小難しいこと抜きにしても楽しめる映画です。一度観ただけでは謎を解くことは出来ないでしょう。そういうのを推理しながら何度も観るというのは本当に楽しい体験ですよ。



教育の名の下に弱者は髭親父どもの強烈な抑圧を受けながら育つ


女は女らしく振舞うことを強要され暴力とレイプにおびえる日々です

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