太陽

昭和天皇の虚実

 

昭和天皇度

100

現人神度

40

カリスマ度

80

総合得点

80


アレクサンドル・ソクーロフの権力者をテーマとした権力四部作の三作目である。

昭和天皇だ。

そもそも
ロシア人に天皇を描けるのかと問われれば大抵の人が疑問を持つだろう。



まあ、映画で歴史をお勉強するなかれ、と常々自分に言い聞かせています私ですが、今回もその例にもれない。この映画はあからさまな創作も含まれている。だがこの映画は素晴らしい。舞台劇のような雰囲気もある。おそらく相当な低予算だろう。だが素晴らしい映画で感動かつ興奮した。

大戦末期〜終戦後、死に体の日本で、昭和天皇がGHQに神格否定を促されるところまでを描いている。

主人公はイッセー尾形が演じる昭和天皇である。昭和天皇が主役という映画は日本では極限までに珍しい。
タブーの総合商社の昭和天皇は、少し画面に写すのすら最大限の神経をすり減らす題材である。大抵の映画人はそのめんどくささを避ける。日本人には昭和天皇を冷静に描くのは不可能である。どうしようと誰かが必ず文句をつけてくるのだからどうしようもない。触らぬ神に祟りなしである。

だがこのロシア人はやってのけた。ヒトラーでさえ「モレク神」で割と冷静に描いていたこの人。配役もどうやって決めたのかかなり興味深い。この映画自体そもそも謎が多いのである。

ストーリー冒頭は「ヒトラー最期の12日間」に似ている。戦局は傾き、首脳部が申し訳なさそうに「ぶっちゃけ負けそうでして」と報告してくる。結果だけ見れば天皇は徹底抗戦を裁可するが、実際天皇には停戦も継戦も決める権力はなかった。

"国民を愛するがゆえに、私はこの戦争を早く終わらせることができない。"

この視点は舛田利雄の「大日本帝国」とは全く逆だ。「とんでもない戦争だった、でも天子様の一言ですぐ終わっちまうんだったらなんでもっと早く終わらせられなかったのさ!」と主婦が啖呵をきるシーンだ。思い出せる方もいるだろう。
日本人がこの程度の天皇観しか持てなかったのに対し、ロシア人のソクーロフの方がはるかに冷静で的を得ていると言える。天皇は政治的権力などほとんど持っていなかった。本当は統帥権だってこれっぱかしも持ってなかった。侍従や政府を通さねば手紙一つ出せない。

周囲も自分を神だ、天照大御神の子孫だと人間扱いしない。自分の体は人間と変わらん。皮膚にさえ何の印もない。神が持つものを何も持たない。それでも神だというのか?天皇は神と呼ばれる自分に強烈な違和感を感じつつも、
「馬鹿野郎!何が神だ!おれは人間だよ、この野郎!」という程度のことすら主張できない。一体天皇ってなんだ…?

みなへへーと畏るが、"誰も私を愛してはいない"
その想像を絶する孤独は観ていて痛ましい。一人の人間として心から同情する。

戦争もこれ以上は無理だとわかっているし、終わらせたいとも思っているが、控えめに申し添えることぐらいしか実際はできなかったのである。私心からヴェトーすることを自らに厳に禁じていた。それは日本が立憲君主制をうたっていたからだ。実際はそんなことはなかったが、
天皇だけは最後までそうあろうとしたのである。

天皇の言葉は全て本心とは程遠い。発言は全て公。だがこの映画は発言だけでは読み取れない昭和天皇の人間味ある姿を、かなり遠回しに遠慮しつつ配慮しながらも割としっかり描いている。全てのエピソードが史実ではないが、その演出に嘘くささは微塵も感じられない。日本人にとっては昭和天皇に親近感を持てるはずだ。
行動や表情や口癖「あそっ」などから、在りし日の天皇の人間味ある素顔をイキイキと画面に蘇らせたのだから。(虚実を含めた)

物語は最低限の説明すらごっそり省き、一気に進む。これは監督なりの理由がある。興味がある方は下記のインタビューに目を通して頂ければ良いだろう。
http://www.sbbit.jp/article/cont1/11512?page=1
ソクーロフ監督のインタビュー

そしてGHQの最高司令官マッカーサーと出会い、神格を自ら否定し、人間である自分を受け入れ、爽やかに人間としての未来に目を向ける。だが、自分が人間として生きることを許さぬ人々がいる。それが日本国天皇の背負う
原罪なのだ。ラストはそう言ったことを感じさせた象徴的シーンであるが、これは創作である。何だかよくわからないという人は観てみてくださいね。

その他、マッカーサーとの会見の会話内容なども全て創作。よって印象的なシーン、マッカーサーが昭和天皇の第一印象を「まるで子供だ」と称したことも、創作である。よってここで描かれる天皇の人間性も創作であると言える。

こういった創作にこれは「史実と違う!デタラメ映画!」と切り捨てるのはもったいなすぎる。これは劇映画である。監督も「これはドキュメンタリーではない」とはっきりおっしゃっている。こういったあれこれを理解した上でじっくり観賞にのぞめばとても楽しめる映画である。

天皇の何気ない所作から色々推測しながら観るのは大変楽しい体験でしたよ。オススメ。



 

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