>>戦争映画中央評議会

シャトーブリアンからの手紙

将校1人に150人の人質

上質度

100

レジスタンス度

100

銃殺刑度

100

総合得点

80


2011年フランス・ドイツ映画。

基本的に実話ベースの語り口。上質な戦時ドラマといった趣だ。

ドイツの作家、エルンスト・ユンガーとハインリヒ・ベルが残した著述に基づいているという。「ブリキの太鼓」のフォルカー・シュレンドルフが監督だ。

 

 

 話は、1940年の秋、占領下のフランス、パリ南西部ナントの町でドイツ人将校がフランスパルチザンによって襲われる。将校は死亡。ちょび髭は報復を命令し、150人の無関係な人質の銃殺を指示。

そこそこ平和的に北仏を統治していたドイツ軍司令部はこの総統命令に頭を悩ます。総統命令は絶対。あらゆる権力の上位に位置する。逆らうことはできそうもない。 

ドイツ官僚的な生真面目さで150人の処刑リストが作成される。女は除外し、軽犯罪者も除外し、なるべく若くて生粋のコミュニストであること。シャトーブリアン収容所の政治犯収容棟が”人質倉庫”として抜擢。ここから銃殺にする人間を選び出すわけだが、肝心のセレクトはフランスの地元の役人。

 フランス官僚は罪の意識にさいなまれるが、建前は人助けだ。なにしろ自分らがこの困難な仕事をやり遂げられなかったら、ドイツ軍は無実の市民を処刑するだろう、、、奴らはそれをマジでやる連中だ。こうやって自分に言い聞かせる。仕方がなかったんだと。

このあたり、一人一人丁寧に選び出して、名前や肩書きをタイピングして、リストを作って、本国に許可を求めて、数がしっかりあってるかチェックして、足りなければ適当な理由つけてどこかから補充して、、、、んで実行する、という流れを詳細に映像化しているのは相当珍しい。ここはこの手の映画が好きな人は是非観るべきだ。ナチスドイツのガチガチな官僚体質をうまくあらわしている。

この映画はフランスの愛国映画である。かつてはこの事件をフランスの元大統領サルコジが政治運動に利用し、学校教育の場で処刑された17歳の少年、ギィ・モケの手紙を朗読するよう求めた。こんな感情的でわかりやすい愛国教育を国が命令するなんて、、当然フランスの教育現場は憤懣と抗議の嵐が吹き荒れたそうだが、真面目にしっかり朗読させる先生もいた(笑)。この事例を見るにつけ、フランスの愛国教育は日本とは比較にならないほど末期的にひどい状況である。「国民戦線」が快勝するのも偶然ではないというわけだ。

さて、この映画だが、そんなフランス官僚とドイツ当局の逡巡と日和見を描きつつ、ひたすら処刑される人質は誇り高く描いている。

まあワタクシとしては共産主義に特別ひいき目もないですが、ギィ・モケや処刑される当日に釈放されるはずだった青年(しかも妻が迎えに来ている)の、涙涙の末期の姿を観ていたら、本当に自然としっとり泣けた。ギィは英雄どころか、ケツの青い童貞小僧として描かれていたし、青年が処刑される直前、迎えに来た妻と10分だけ面会を許されるくだりとかは非常に感情移入して観てしまった。妻も迎えに来て夫とやっと抱擁できると思っていたら、処刑されると聞いてたまげたであろう。処刑前一時間、手紙を書く許可を与えられ、みな一心不乱に家族への手紙をしたためる。汚い紙に。短い鉛筆で。彼らの心境を思うと非常に残酷な事件であったと胸が痛む。犠牲者に冥福を。そんな彼らを英雄に祀り上げる気持ちもわからないでもない。単なる犠牲者として終わらせたくないという気持ちも。フランス国民の国を挙げた哀しみが伝わってくる。ケチをつける勇気はない。だからこそ安易に愛国教育に利用することは暴挙だと言える。

この映画、以上のようにウェットな側面もあるけど、客観的に感傷を抑えようとしているのもよくわかった。演出はくどくないし、悲しげな音楽がかかるでもなかった。ドイツ兵たち、とりわけハインリヒ・ベルと思われる丸メガネの見るからに気の優しそうな青年兵士が、たった一度の銃殺で精神をズタズタにされ、ひきつけを起こして倒れこんでしまうくだりなど迫真に満ちていた(「炎628」でベソかきながら納屋へ銃弾を撃ち込んでいた兵士がいたが、アレを思い起こさせた)。

ドイツはもともと高度な文化を持つ国である。そんな彼らも、ヒトラーと≪フォルク≫へ宣誓した以上は、血塗られた任務も勇気をもって乗り越えなければならなかった。むろん、それは犯罪に近いものだったが、高い教育を受けた文化人とはいえ、手を汚すことを免れることはできなかった。これは東部戦線では10000倍ぐらいの規模で行われた悲劇である。ましてや東部戦線では女も子供も銃殺しなければならなかったのだ。

善良な市民を非人間的な殺戮者へと変えてしまう。

そんなヒトラー政権の残虐さをあらためて感じることができた。

ドイツ占領当局も、安定した統治のためには友好的にやったほうがいいじゃん、と総統命令にうんざりしているが、そこはドイツ人、命令には絶対服従だ。だって、そう決められてますから、しょうがないっすよねって感じで。この権威に逆らえません、というドイツ人の気質は様々な場面で色々と語れているトピックスだ。

恐怖の支配体制は一点の曇りもない「上には絶対服従」の構造が支えていた。これはホロコーストを描いた映画ではないが、ホロコーストに近いものを描いた映画と言える。ドイツのパルチザン闘争を理解するうえでとても重要な作品だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

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