ファシズム

1.ファシズムとは
 ファシズムとは20世紀にイタリアで生まれた全く新しい政治思想である。これほど悪の危険思想という認識がなされている思想はない。現にファシズムは飽くなき権力欲を持った男が場当たり的に確立した思想であり、権力を獲得する手段としてファシズムを利用したと考えられている。ムッソリーニは全く持って平凡な社会主義者であり、彼自身信念というものはほとんどなく、連合軍がシチリア島に上陸した後失脚した彼は、ナチス親衛隊の特殊部隊によって救出される。その後北イタリアで興そうとしたサロ共和国は純粋な社会主義国家として創る予定だったと言うことからもムッソリーニが平凡な社会主義者であったということは間違いない。ムッソリーニの伝記については近々執筆予定である。

 ファシズムの語源はラテン語のfascesであり、統一のシンボルである杖の束のことである。ローマ共和国の伝統的なシンボルである。これに象徴されるようにファシズムは懐古主義的な全体主義運動であり、過去や歴史を過剰に美化、あるいは憧憬の念を持って崇拝することによって自民族の優越性を唱えるものである。もちろん国家社会主義(以下ナチズム)とファシズムではその度合いが全く異なり、1930年代初頭にはドイツを訪れたムッソリーニはドイツを指して「狂った人種差別主義者の収容所」と称した。そしてナチがユーラシア大陸の半分を席巻した絶頂期、ムッソリーニはナチスを真似てユダヤ人排斥運動を始めるものの全く不徹底なもので、ナチズムほど悪質なものではなかった。

 それではファシズムとはいかなる思想であるのか?という問題は現在に至っても多くの評論家の間で議論が交わされているが、全く解決していない。結局ファシズムってなんなの?と言う疑問は持っても至極当然。今でもはっきりしないからわかるわけがないのである。はっきり普遍性を持った定義を挙げることは困難であり、的外れなものである。何故ならファシズムはナショナリズムと極めて密接な関係を持っているからである。ナショナリズムは各国によって様々な色彩を帯びている。ドイツにおいては北欧ゲルマン民族による神話が自民族の優越性を唱える材料とされた。イタリアにおいては神聖ローマ帝国の復興がスローガンだった。日本にファシズムがあるとすれば、天皇という2000年以上にわたる壮大な物語がナショナリズムに大きく貢献したと考えられる。特に日本では武士道が過剰に賛美される傾向があり、仕官が携行するサーベルが1930年代後半になるとフランス製のサーベルから、国産の日本刀へと取って代わられた。また日本軍の、捕虜になるぐらいなら死を選ぶという感覚は、このような武士道が広く奨励された結果かもしれない。
 ナショナリズムは各国ごとの文化に拠るところが大きいので統一した定義を設けることは不可能である。しかし、懐古主義が見られることは共通した特徴である。社会主義が革新派で、歴史、伝統を否定したのに対し、ファシズムは歴史、伝統を大切にした、国民を一致団結する材料として利用した超保守主義といえる。
 ファシズムは権力を掌握する道具的思想であるとか、特定のパーソナリティの指導者が抱く幻想に近い心理的事象であるとか、話し合いや議論を重視する議会政治を軟弱と侮蔑する超行動主義、暴力主義であるとか様々な意見が今でもたたかわされているが、いまひとつ的を得ない。スチュアート・フット、リッツァ・ジャンス著の「fascism」には統一した定義を設けているのが興味深いが、両者は生粋の社会主義者であり、本の内容からも著しく公平性を欠いているのであまり信憑性がない。しかしなるほどと思う部分もあるので以下に簡略して転載する。
・民主主義、議会政治への軽蔑、強固な中央集権型政権
・革新派と保守派の主張のいいとこどり
・社会主義への嫌悪。組合国家形態を形成し、資本家と労働者の利害の相違をなくした
・目的のためならば暴力も正当化された
・独裁、軍国主義
・超懐古主義、歴史、伝統の過剰な賛美
・労働者、農民の存在を重視した
・男尊女卑
・強力な資産家からの経済的援助、プロレタリアート独裁による失墜を恐れたため、社会主義革命の防波堤にしばしばファシストを利用した
・圧倒的中産階級の支持
・常に敵を作って、国民の関心を外にそらした

 以上のようなものである。なるほどと思える部分もあるが参考程度にとどめておいてほしい。
 ファシズムはあらゆる物事に「反」を唱える思想である。反リベラル、反マルクス、反議会主義、反ブルジョアジーである。彼らに言わせるとブルジョアの時代は空虚で、唯物的で、偽善的で、コミュニティが欠如しているとされる。これは世界中のファシストの共通テーマであるとされる。

2.ファシズムの歴史的起源
・ファシズムは、各民族に備わっている極自然な感情であるとする説がある。起源も何も、元から備わっている本能的な精神状態であるとする説である。ある心理学者はファシズムを人間に普遍的に備わっているパーソナリティであるとまで言う。しかし残念ながら心理学者のファシズム観は個人の考えに重点を置きすぎるきらいがあり、物的証拠に乏しいためいまいち検証に耐えない、とオーストラリア国立大学高等研究所のアンドルー・ヴィンセントは述べている。
・ファシズムも、社会主義や自由主義と同じくフランス革命がその起源であるとする説がある。マキャベリをファシズム思想の創始者と見る者もいる。
・フランス革命の後、流行した社会主義や自由的な風潮を暴力で粉砕するのがファシズムであり、社会主義や民主主義なくしては成立しない思想であるという説がある。
・また、ファシズムは極限られた状況下でしか発生しない思想であるという説がある。ヴェルサイユ条約による不平等条約の押し付けや、第一次世界大戦に従軍した経験、世界的な大恐慌、ワイマール共和国の崩壊といった限定された状況が複雑に連鎖したことによってファシズムが抗しがたい実力をつけることとなったというのである。

3.急進思想ナチズム 国家社会主義
 ヒトラーがナチズムをムッソリーニのファシストから学んだというのは有名であるが、ナチズムと、イタリア、スペインなどのファシストは別の思想であるという考え方がある。最も違いが顕著なのが人種論で、ナチズムがすさまじい人種観、社会的ダーウィニズム、エリート思想を持っていたことは周知の事実であるが、その他のファシストには少なくとも一民族を丸ごと絶滅させてしまおうとまですることはなかった。ナチズムの人種迫害はとにかく苛烈で残忍かつ陰惨であった。イタリア、スペインのファシストたちもナチズムの固有の民族観に違和感を感じていた。領土問題に関してもナチズムとファシズムは大きく異なる。ヒトラーが終生執着した東方への生活圏拡大は強迫的に人種問題と結び付けられていた。ムッソリーニも領土拡張政策をとったが、欧州に元からある攻撃的な帝国主義的発想の産物であった。

4.ファシズムと現代
 ファシズムがマルクス主義やのろのろした偽善的な議会政治を攻撃する思想である限り、いつでも復活する危険をはらんでいる。マルクス主義や議会政治は今日において強い力を持っているからである。しかし、ナチズムの犯した猛烈なホロコースト、戦争犯罪は現代においてなお、「ファシズムは危険思想だ」という見解を世界中の人間に持たせることとなった。今でも我々は気に入らない人間を「あいつはファシストだ」と糾弾することがある。特に権力を濫用する者に対して、軽く使う傾向にあり、ファシストはとにかくイメージが悪い。1920〜30年代にはファイストに対する悪いイメージはほとんどなかった。むしろマルクス主義や議会政治に対する反感があったからファシズムが歓迎される傾向さえあったのである。

 欧州ではネオナチが依然くすぶっていることもまた事実で、ドイツの共和党、フランスのルペン率いる国民戦線、スペインのフランコ独裁の郷愁から生まれたスペイン国家社会党、イギリスの国民戦線、ヒトラーの再来といわれるオーストリアのハイダー率いる自由党などである。特にフランスの国民戦線は10万の党員、20万の支持者を有し、党首ルペンは大統領にまでなりかかったのである。このような極右政権に対する支持層は共産党や資本主義に対する絶望、移民への反感から来る民族主義が背景にあるとされている。

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